ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ヴァルトビューネ河口湖2025 に行ってきました。

 盛夏、暮れなずむ午後、ベルリンフィルのヴァルトビューネ河口湖コンサートが、穏やかな雰囲気の中、開演した。頑張って取ったチケットは後ろから2列目、やや舞台が遠い印象ではあったが舞台・劇場全体を見渡せて気分が良い席であった。座席はやや狭く姿勢をただしていないと隣の人とぶつかりそうな感じで「うっ!!暑そ~ぅ」と思ったが、背後からは時折気持ち良い風が吹いて、心地がよかった。

 今回のプログラムは、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメル氏によるラテンアメリカにルーツをもつ曲目で飾られた。ベルリンフィルによる、ラテンアメリカの音楽を想像させるリズミカルなフレーズの演奏は、落ち着きがありながらも、体の底からムズムズするリズムが発生されるようで心も体も軽くなるような感じがした。ラテンアメリカといえば、にぎやかで情熱的なイメージがあったが、一曲目から終始、指揮者とオーケストラの良いとこどり(鳥?!)がよく感じられ、静かな優しさ、美しく魅力のある演奏だった。それは河口湖に集まってきた鳥や虫も一緒だったかもしれない、と思わせてくれた演奏会であった。

 開演前、ビール、水、おつまみ、ひとしきり喉を潤し、腹ごしらえを済ませて席に着き準備万端の観客。会場に訪れた観客は皆、海外初となる「ヴァルトビューネコンサート」を河口湖ステラシアターで味わうために集まったのだから、想いは熱い!はずだったが、そこは大人だからであろうか(笑)、和やかな雰囲気の中、演奏が始まった。

その時。ステージから風が吹いた…………気がした。


 それは、大音量で威圧的な音というわけではなかった。優しい演奏が流れ、日々の喧騒から解放されて癒されていく瞬間を感じ、自然と心と目が潤んでいった。少しずつ増えていく音や楽器、演奏音とともに、鳥の鳴き声も心なしか増えていった。開放された天井のむこうから聞こえてくる音にも目をむけながら、見渡すと、舞台から音が反射してくるような感覚をものすごく感じた。ハッとさせられた。

 そう、この劇場は見渡せば、天井は開放され木々や空が見え、客席は満席で人・人・人。音の反射面といえば、一部客席に張り出している舞台の床、舞台の中、張り出し舞台の上の音響反射板、わずかながら客席の通路床ぐらいであろう。自然と、視線も耳も、舞台にフォーカスされていった。フォーカスされるとものすごく舞台が近く感じるものである。

 決して大きすぎない音量の演奏が舞台から届く、穏やかというべきか、優しいというべきか、開演前には聞こえなかった鳥の鳴き声も演奏音とともに増していき、ラテンアメリカ風のリズミカルな演奏の時には、鳥の声も、小刻みにリズミカルに演奏に合わせて歌っているがごとく、不思議と変わっていた。微笑ましかった。 河口湖の鳥もリズミカルに歌うのね!と感動した。数年前にオーストリアの森で聞いた鳥の声が、日本では聞いたことがないような歌声であったことを思い出した。決して演奏に集中していなかったのではなく(笑)、ベルリンフィルの演奏にも負けないぞという気迫を感じるほどの鳥の歌声であったが(笑)、ベルリンフィルの演奏と鳥の歌声は同化していた。その絶妙な音量バランスに驚いた。これもハッとした。意図した演出なのか、必然的な現象だったのか、いずれにしても、鳥も一緒に演奏を楽しんでいたに違いなかった(と思う)。一緒に演奏したい、と思ったのはきっと私だけではないだろう。ドイツ本国のヴァルトビューネも、自然とともに穏やかな演奏を楽しむコンサート・空間なのだろうなぁ、と肌で感じた演奏会であった。

 これから厳しくなりそうな暑い夏にバテそうだったが、一瞬のうちに癒され、あっ、私は今日活力をもらいに来たんだ!と直観した。ベルリン・フィルのヴァルトビューネ野外コンサートはシーズン最後を飾る夏の恒例となることを察することは簡単だった。

「さっ!今日は自然と音楽で癒され、明日からは暑い夏を乗り切ろう!」

 来月はヨーロッパの野外オペラ視察に出かける。このヴァルトビューネ以上の体験を期待しつつ、今準備中である。皆様にまた良い報告ができるように、目と耳を見開いて行ってきます!

 余談だが、実は、ヴァルトビューネコンサートの翌日、河口湖近くの新倉山(あらくらやま)に登った。ここには富士山と桜と五重の塔とが同時に観ることができる新倉山浅間公園がある。海外の観光客にも人気であるこの眺望スポットを過ぎ、観光客もグッと少なくなる場所で、鳥の鳴き声を聞いた。ん?なんか違うぞ、鳴き方が違うぞ、歌っているぞ(ニヤリ)。きっと前日ヴァルトビューネコンサートを一緒に聴いた鳥だったかな、とひそかに思い山道をあるきながら、ニヤついていた。もしかすると河口湖の近くの鳥は、ヨーロッパの鳥と同じようにクラシック音楽を聴いて育っているかも。もしかするとクラシック好きな鳥もいるかもしれないゾ。(千葉朝子記)

新倉山浅間公園から(今日は富士山が見えなかった)/河口湖ステラシアターと新倉山との位置関係The鳥地図(笑)

【ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ヴァルトビューネ河口湖2025 (海外初公演)】
日時:2025年7月5日(土)晴。17:30開演 
場所:河口湖ステラシアター(約3000席)
曲目:
 ガブリエラ・オルティス:Kauyumari(カモシカ)
 デューク・エリントン:”Martin Luther King” from Three black kings(『スリー・ブラック・キングス』より「マーティン・ルーサー・キング」)
 アルトゥーロ・マルケス:Danzón No.2(ダンソン第2番)
 エヴェンシオ・カステリャーノス:Santa Cruz de Pacairigua(パカイリグアの聖なる十字架)
 ロベルト・シエラ:Alegría(アレグリア)
 アルトゥーロ・マルケス:Danzón No.8(ダンソン第8番)
 レナード・バーンスタイン:『ウエスト・サイド・ストーリー』より「シンフォニックダンス」

【ヴァルトビューネ】(参考:チラシより)
「森の舞台」を意味するヴァルトビューネは、1936年に建設された古代ギリシャ円形劇場をモデルとして約20,000人収容できるドイツの野外劇場であるが、1982年に舞台上に象徴的なテント風デザインの屋根が設置されてからは野外音楽堂としての利用が増えた。ベルリンフィルのヴァルトビューネ野外コンサートは1984年から開催され、現地ドイツでは、シーズン最後を飾る夏の恒例コンサートとして6月に開催されている。「ピクニックコンサート」ともいわれ、人々の楽しんでいる雰囲気とともに日本でもTV放送で紹介されてきました。

【河口湖ステラシアター】  1995年に開館した、同様に古代ギリシャの円形劇場をモデルとし約3000人収容可能な野外音楽堂。天井の一部は、スライド式の可動屋根を備えており、閉じれば、雨天時に対応をすることもできる。指揮者・佐渡裕さんの第九コンサートや音楽祭などでTV放送でも紹介されることでも有名な施設。2025年は、会館30周年を迎え、音楽祭も盛り上がりをみせています。

【参考】
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2025 <オフィシャルHP>、同チラシ
・ヴァルトビューネ河口湖2025 パンフレット
河口湖ステラシアター & 河口湖円形ホール | 公式サイト